世界一有名なファッション誌・VOGUEを作る個性豊かなエディターたちと、彼女たちがそれぞれの制作現場を振り返るドキュメンタリー。
このドキュメンタリーの魅力は、普段は表舞台に登場しないエディターたちが、印象的な撮影の裏話を語ってくれること。彼女たちはベテラン中のベテランで、すでに引退した方もいます。ファッション業界の最前線で活躍してきたタフな女性たちが、気難しいセレブや大女優との撮影、60年代のアジアや未開の地での撮影など、その時代の息吹を感じるエピソードを語ってくれます。
また、歴代の編集長たちのアーカイブにも注目です。彼女たちは、社会情勢に伴う人々の意識の変化に気づき、時には批判を覚悟で誌面を大きく変える決断を下しました。この60年ほどの間にVOGUEが打ち出したセンセーショナルな企画や写真を辿れるのも、この作品の面白さです。
自分の個性とスタイルを、仕事と作品に昇華させる
グレース・コディントン(Grace Coddington)が90年代に企画した「グランジ特集」 フィリス・ポスニック(Phyllis Posnick)のちょっとグロテスクな写真 カーリーン・セルフ(Carlyne Cerf de Dudzeele)」が高級服 × チープアイテム のスタイリング...
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「受け入れがたい」「突拍子もない」「衝撃的」と評価される作品は、既成概念をひっくり返す強いメッセージ性を持っています。 例えば、グランジについて聞かれたアナ・ウィンターは「パジャマスタイル」と答えたし、モデルのリンダ・エヴァンジェリスタは「ひどい時代だった」とため息をつきます。しかし一方で、編集者のカミラ・ニッカーソン(Camilla Nickerson)はグレースが担当したグランジ写真を「お気に入りの一枚」だと絶賛し、マーク・ジェイコブズがペリー・エリスで発表した(そしてクビになった)グランジコレクションはいまや伝説となっています。
後世まで残る作品は、賛否両論はっきり分かれます。そして、クセの強い作品ほど記憶に残ります。
このVOGUEの編集者たちはそれを理解していて、誰かに批判されても惑わされません。 「あなたは違うかもしれないけど、私はこれが美しいと思う」と、自分が信じるものを作り続けます。彼女たちのファッション写真には、それぞれの個性とスタイルが反映していて見応えがあります。
マーク・ジェイコブズに「口の悪いフランスセレブ」と(親しみを込めて)紹介されたカーリーン・セルフ。高級ブランドとチープなアイテムの組み合わせが彼女のスタイルです。
この『In VOGUE』の中で、彼女たち自身が自分の作品と一緒に写し出されると、両者に一貫性を感じてなんだか納得します。「なるほど、この人の作品だな」と思うのです。
写真の中に編集者本人は不在なのに、作者の個性と存在を作品から強く感じさせるというのは並大抵じゃできないことだと思います。創作者として彼女たちの姿勢にとても憧れますが、一緒に仕事をするのは、きっと、かなり大変でしょう。
「ワガママ」ではなく「信念」になる仕事をする
仕事をしているといろんな人に出会います。とっても気が強い人がいて、ものすごく周りを振り回す人もいて、周囲への当たりが強い人もいて、何が何でも自分のやりたいことを貫こうとする人もいます。大抵こういう人は人間性を疑われて周囲から距離を置かれていますが、同時に、かなり仕事ができるやり手として一目置かれていたりもします。 他人からワガママな曲者と後ろ指さされることも厭わず、自分の道を突き進んで勝利や成功へ執着できる。私はこれを「信念」と呼んでもいいと思っています。彼らが成功した時に過去を振り返ると、傍若無人な振る舞いは「ワガママ」ではなく「信念」に変わっているのです。